The






思えば始めから変な子だった。それはいつまで経っても変わらないし、変わり様もないだろう。始めて会った時、授業後に一人、屋上でマフラーを編んでいた。それも真夏に。次に会った時には、女子と群れていて、廊下でシルクハットについて一方的に語っていた。不審。暇だったから、昼の休み時間に応接室に呼んだら、昼食に素麺を食べていた。秋だからまだ許す。水筒が二つあって、それぞれに麺と汁が入っていた。麺が伸びていた様な気がする。最近目立っている沢田綱吉とは幼い頃からの付き合いらしく、赤ん坊とも親しいそうだ。変人と天才は紙一重とはよく言ったものだ。僕には彼女が変人にしか見えない。残念ながら。

彼女の奇行は僕の記憶から常に入れ替わる程多いが、取分け6月5日の事は印象強い。6月5日というのは、5月5日の1か月後で、つまりは僕が生まれた日の31日後だ。過去に遡るとする。






Doubtful






彼女はその日の授業後、僕がいる応接室のドアを数度ノックした。毎回3回なのだ。ドアを3回ノックする人間なら他にもいるから、僕はその時未だ彼女だとは予測していなかった。開けると彼女がいた。閉めようかと思った。

「雲雀さん、お誕生日じゃない日もといお誕生日一か月後おめでとうございます。」
「何きみ。うさぎ?帽子屋?」
「じゃあ眠りねずみで。」
「ああそう。じゃあね。」

書類が溜まりに溜まった状態のお陰であまり機嫌が良いとは言えなかった僕は、文字通り彼女を締め出そうとした。残念ながら、隙を見て彼女は室内に入ってきた。なんだこいつ図々しい。

「お誕生日一か月後のプレゼント持ってきたんです。当日は学校休みだったし、それじゃあつまらないし…。」
「じゃあ有り難く頂戴するから帰ってね。」

彼女が手にしていたビニールの袋を半ば奪い取る様に貰い、早く家に帰れと言いながら追い出した。その頃、僕の並盛に隣街から雑魚が入り始めたのだ。次の日にでも咬み殺しに行く予定で、結局実行した。

革張りのソファに掛けてビニール袋を覗くと、青い包装紙でラッピングされた薄いものが入っていた。取り出した。開けてみた。絵本だった。くすんだ黄緑の表紙。エドワード・ゴーリーの「優雅に叱責する自転車」。表表紙には自転車とワニ。タイトルも絵も、彼女が好きそうだ。表紙を開いて、ゆっくり一枚ずつ頁をめくる。白黒の線画と意味のよく分からない文は、確かに素晴らしいものであった。彼女を見る目を少なからず改めてやっても良いと思った。その日は何度か「優雅に叱責する自転車」を読んで終わった。図書室に寄ってみたが、案の定、ゴーリーの本は見付からなかった。僕が帰る時間には、町内の図書室は閉館しているのだ。

次の日、6月6日の3時間目辺り、多少、シャツが返り血で赤くなっていたが、気にせず学校へ行き、応接室へ行った。書類の山は草壁が処理したのだろうか、小振りになっていた。生徒は授業中で、グラウンドが騒がしいだけだった。しかし暇だった。書類には飽き飽きしていたのだ。ソファの上で横になった後、デスクの引き出しにしまっておいた「優雅に叱責する自転車」を出した。そうだ、暇潰しなら他にもあるじゃないか。

放送室でクラスと名前を言うと、数分後、彼女は応接室のドアを3回叩いた。僕が開ける前に勝手に開く。

「お邪魔します。」
「座りなよ。」

彼女はまたビニール袋を持っていた。一礼して、僕の向かいに座って、それを差し出す。

「貸します。」

受け取って覗くと、薄い本が3冊。ゴーリーの絵本だった。「うろんな客」と「おぞましい二人」と「ギャシュリークラムのちびっ子たち」。黙って「うろんな客」を手に取って、読み始める。黄色い表紙に、マフラーを巻いた変な生き物がいる。

「何なのこいつ。」
「うろんな客です。」

特に何も返さずに、黙々と読み始めた。鳥の様な獣の様な、変な生き物が、ある家族の家に住み着く話だ。なんて迷惑な奴なんだ、うろんな客。僕なら間違いなく咬み殺してる。

「抱き心地よさそうですよね。」
「そうかもね。」
「でも身近にはあまりいて欲しくないなあ。」
「同感だ。」
「でも好き勝手な所は雲雀さんにも何処となく似てます。」
「君も十分胡乱だよ。」
「褒め言葉として受け取らせて頂きます。」
「頼んでないけど持って来てくれた事なら褒めてあげなくもない。」

「ギャシュリークラムのちびっ子たち」を読む。黄土色の表紙に並んだ子供たちの後ろに立ってる黒い傘を差した死神がなんとなく好きだと言ったら、彼女も同意した。「おぞましい二人」を読んだら、その日咬み殺した隣街の馬鹿な奴らも、頭が悪くて弱いだけにしか見えなくなった。

「他のも読みますか?」
「持ってるなら。」
「じゃあ明日持って行くので、授業中に放送入れて下さい。何も言わずに出て行けて楽なんです。」
「へえ、僕を使おうだなんて、良い度胸してるね。」
「良いじゃないですか、それくらい。」

へらへらと、彼女は笑った。何故か僕にはそれが物珍しかった。考えてみれば、他者が僕にそんな顔を向けないのだ。大抵の人間が僕に向けるのは、恐怖や畏怖の視線で、気の抜ける様な間の抜けた笑顔ではない。本当、どうしようもなく変な子で、変な生き物だ。

「うろんな客みたいだよ、君。」
「わたし、お皿は食べません。」
「気付いたら僕の中にずかずか踏み込んでて、」
「応接室には押し入ってますね。」
「君見てると、書類とかどうでもよくなってくるし、」
「いやいや、草壁さん可哀相ですよ。」
「変だし、」
「傷付きますよそれは…。」
「どれだけ迷惑でも僕の中から出て行きそうにないよね。」

大きく溜め息を吐くと、彼女は僕の目の前でぽかんとした阿呆面を曝していた。うろんな客みたいに何処となく可愛いかもしれないと思ったのは、彼女には言ってやらない。






Guest






さあ、今日も放送室で、胡乱な僕の客の名前を呼ぼうか。




Thanxx for 2nd anniversary and so many guests! Lovin' you!
Moe / Tourniquet / http://tourniquet0125.xxxxxxxx.jp/