カーテンから透ける朝日の眩しさに目を覚ましたら隣があったかくて、慌てて横を見ると見慣れない金髪が広がっていた。ああ、ハルノか。長い前髪を手で漉きながら、あどけなさの残る寝顔を眺める。眉毛だけじゃなく睫毛まで金色になっていた。真っ直ぐで綺麗な黒髪は、急に癖のある金髪になってしまった。これはこれで綺麗なのには変わりはないのだけれど、なんだか勿体ないような気がしてならない。そして未だに見慣れない姿にどきりとする。

「ん……」
「全く、また寮抜け出してわたしの家に上がり込んで…」
に会いたくて仕方なかったんです」
「夜中に出歩くようになるなら、合鍵なんて渡さなければ良かった」
「返しませんよ」
「はいはい」

眠そうにしながらも唇を尖らせてわたしに反抗するハルノは、大人びているとは言え、やっぱり十五歳だ。いつも年下扱いすることに文句を付けられるけど、可愛いのだからしょうがない。

「……なんですか?僕の顔に何か付いてます?」
「うん、ハルノの顔が」
「ああそうですか」

わたしの答えが気に入らなかったらしく、ハルノは顔を背けるだけじゃなく、わたしに背を向けた。まだまだ子供だと思ってたのに、広い背中だ。きっと、わたしよりずっと早く大人になっていくのだろう。取り残されていくことが容易に想像出来て、思い描いてしまった未来を掻き消すように、ハルノの背中から視線を外した。

「ハルノ、わたしそろそろ起きないと学校間に合わなくなる」
「サボれば良いじゃないですか」
「だーめ!ハルノももう帰った方が良いんじゃない?」
「今日は一緒にお昼まで二度寝するって決めたんです。だからは学校行っちゃ駄目です」
「横暴な…」
「今更でしょう?」
「ああもう、構ってほしいならせめてこっち向きなよ」

伸ばした金色の襟足に指を絡めながら溜め息を吐くと、ハルノは急にその手を掴まれて、ごろんと転がって方向転換した。わたしの手を自分の頬に当てる。すべすべだ。羨ましい。

「今日のは僕の髪にばっかり触ってますね」
「うん、そうかもしれない」
「僕としては髪より触ってほしい所が沢山あるんですけど」
「ほっぺ?」
「ほっぺもですが、」

掴んだままのわたしの手の指先を唇に当てる。その仕草も目を細めた表情も無駄に色っぽくて、手を引っ込めることすら思い付かなかった。前のハルノは全然、そういうことしなかったのに。キス一つに勇気が必要な健全なお付き合いだったのに。

「キスして下さい」
「はあ?」
がキスしてくれたら起きます」
「ハルノったらいつの間にお姫様になったのよ」
「今です」
「屁理屈」
だってさっき屁理屈言ったでしょう?」
「ああ言えばこう言う…」
「だって言いくるめられるなんて僕らしくないじゃないですか」
「はいはい」
「僕を年下扱いするなら、年上らしく構って下さいね」
「うん?」

ずい、と顔を近付けて、ハルノは微笑む。金色が眩しいな、と現実逃避をしようとしたら、布団の中で脚を絡められた。逃げるなと言いたいらしい。本当に、最近のハルノは過激になった。

「そんなに嫌なんですか?」
「ていうか恥ずかしい」
「折角なので更にその先に進んでも良いんですよ?」
「いつの間にそんな子になってしまったの…」
「僕だってもう子供じゃないんです」

しかしそう言いながら頬を膨らませるのだから、背中が広く見えようとも、やっぱり中身はまだまだ子供だ。わたしはそっと自分の手をハルノから引き剥がした。

「ジョルノ」

ハルノの気を紛らわしたい時、わたしはいつもこう呼ぶ。不満そうにわたしを軽く睨み付けて、毎度のように同じ言葉が返ってくるのだ。

「ハルノって呼んで下さいって何度言ったら分かるんです」

皆がジョルノと呼ぶ中、多分、ハルノに近い人で、ジョルノと呼ばないのはわたしだけだ。ハルノは、ジョルノ・ジョバァーナと呼ばず、ハルノ・シオバナと呼ばせることで、わたしを自分にとっての特別にしたいのだろうと思う。一度、漢字で名前を書いて貰ったことがあるが、複雑すぎて覚えられなかった。綺麗な並びで素敵だとは思ったのだけれど。

「子供ね」
「もう、に可愛がられるなら何でも良いです」

諦めたように視線をずらすハルノが可愛くて、年上振るのも良いかな、と思った。壁掛け時計を見たら、もう一時間目には間に合いそうにないことが分かったので、途中から行くのも面倒だし、諦めることにした。あーあ、友達にノート借りなきゃなあ。仮病は腹痛にしようかな。

「ハルノ」
「何ですか?」

サボることになってしまった腹いせに、不意討ちで柔らかい唇に食い付いてやった。半ばやけくそだ。しかし後で気付く。しまった、これじゃあハルノを喜ばせることになるじゃないか。案の定、ハルノは引こうとしたわたしの頭を抱え込んで、べったべたに甘ったるくキスしてきた。負けたようで悔しい。






砂糖菓子の牙





(090805)