雨の日はジョニィは殊更外出したがらない。車椅子を操縦するために傘は差せないし、水溜まりを通って汚れるのも嫌い。悪天候のせいで予定を変えざるを得なくなると、臍を曲げて取り付くしまもない。放置するに限るのだけれど。どうしても出掛けなければならない日は、ジョニィが傘を差してわたしが後ろから押す。しかしわたしだって常にジョニィと一緒にいられる訳じゃない。それで一日の計画が白紙に戻ると、いつも以上に我が儘になる。 浸水するこどもたち 次の日、ジョニィの部屋から咳き込む音が聞こえて、わたしは飛び起きた。ノックもしないで咄嗟にドアを開けると、涙目になって鼻を啜りながらうめいているジョニィが布団から顔を覗かせていた。昨日はすぐにお風呂に連れてったし、ご飯も暖かいものにした。しかしながら風邪を引いたようだった。額に触れたら熱かった。 「寒い!喉痛い!お腹すいた!」 「食欲はあるのね。朝ごはんと薬用意するから待ってて」 今日のジョニィを布団から出すのも車椅子に乗せるのも無理そうだと判断して、ベッドでも食べられそうなフルーツとスープを用意する。昨日は髪もしっかり拭いたし、夜更かしさせなかったのになあ。迎えに来てもらうようなことをした自分に苛立った。駄目だ、悔やむ暇があるなら看病だ。首を振って、嫌な思考回路を振り払い、食事に風邪薬と水も付けて再びジョニィの部屋に行くと、遅いと怒られた。スープに少し時間がかかってしまったのだ。 「今日は一日寝てること」 「は仕事行くの?」 「休むよ」 「ほんと?」 「ほら、食べたら寝る」 食器を下げて濡れたタオルを持って行ったら、ジョニィは仰向けになっていた。前髪をどけてタオルで冷やすと、べたべたして気持ち悪いと唇を尖らせた。氷枕を提案したら、あんなに固くて冷たいのを乗せたら頭が痛くなると更に嫌がった。 「、寒い」 「毛布も持ってくる?」 「いらない。こっち来て」 「なあに?」 柔らかな金髪を撫でてやると、直ぐ様腕を掴まれて、そのままベッドに引き摺り込まれた。下半身が動かせない分、ジョニィの上半身は筋肉がしっかり付いている。そんな力に引っ張られてわたしが動かない訳がない。奇声に近い悲鳴と共に、わたしはジョニィにのし掛かってしまった。 「重いんだけど!」 「自分が引っ張ったんでしょ馬鹿!」 「ああもう、早く僕の上から退いてよ!」 「分かったから手離しなさい!」 「それはいやだ!」 「はあ?」 「寒いからに抱き枕になってもらおうと思ったんだ!」 ジョニィは顔を真っ赤にして、わたしをベッドの隅に避けて、布団を被せて抱き付いた。あまりの急展開に逃げる暇もない。 「何してんの!?」 「僕は寝るから起こさないでよ」 「職場に連絡してないんだけど!無断欠勤はやばいって!」 「うるさいなあ、僕は病人なんだから静かにしてくれる?」 仕方がない、ジョニィの風邪が治るまでは我が儘を聞いてあげよう。移されたらジョニィにまた移し返してやれば良い、と思ったけど、延々とこれが続くのは嫌だから、わたしは体調管理をしっかりしよう。ぎゅっと目を閉じたジョニィはこっちを向いてて、タオルが落ちている。乗せられない。床に放っておけば良いか。 「ジョニィ、」 「本当は、こうやって風邪引きたくて、傘差さないで行ったんだ」 「うん?」 「に構ってほしかったからだよ」 それっきり、ジョニィは喋らなかった。その代わり、ぎゅうぎゅうとわたしを抱き締める。触れ合った爪先が殊の外冷たくてびっくりした。そう言えば、退院してすぐのジョニィを拾ったばっかりの頃に比べれば、スキンシップは確実に減っている。寂しがりの癖に強がりのジョニィは我慢してたのだろう。それにしても、甘え下手だからって無理をして風邪まで引いてしまうなんて。 「おやすみなさい」 ジョニィの寝息が聞こえてきた。二度寝もたまには悪くない。後でジョニィの好きなものをたくさん作ってあげよう。体温の高い胸に顔を埋めて、わたしはジョニィの鼓動を聞くことにした。 |
(091108)